そろそろお歳暮のことを考えなければならない季節がやってきました。日本には古くからお世話になった方へ年末にお歳暮を贈る風習がありますが、そもそもお歳暮とはいつ、どのようにして始まったものなのでしょうか。今回は、お歳暮の意味やその由来について考えていきましょう。
お歳暮とは、今年1年お世話になった人に対して「今年1年間ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。」の気持ちを込めて渡す贈り物のことです。
もともと 「歳暮」は「年の暮れ」を表す言葉で、俳句の世界では12月の季語にもなっています。毎年、年の暮れになると日頃からお世話になっている人に感謝の気持ちを伝えるための「歳暮回り」という行事が行われていました。その時に手土産を持参することが多かったことから、その贈り物のことが「お歳暮」と呼ばれるようになった歴史があります。
お歳暮は、数年前までは会社の上司や仕事でお付き合いのある取引先、親戚などに送るのが主流でした。しかし、最近では実家の家族や親しい友人・知人にもお歳暮を贈るケースが増えています。お歳暮の時期になると、デパートやスーパーなどで多くの商品が贈答用として出回ることから、この時期特有のにぎわいが「歳暮商戦(せいぼしょうせん)」「お歳暮商戦(おせいぼしょうせん)」などと呼ばれることもあります。
お歳暮を贈る時期は、東日本では11月下旬〜12月20日前後、西日本では12月13日〜20日前後と多少の違いがあります。お歳暮を贈るのに適切な時期は送り先の方が住んでいる地域により異なるので、事前によく確認しておくことが大切です。
意外なことに、お歳暮のルーツは中国に古くからある慣習にあります。中国の道教では、旧暦の1月15日は「上元」、旧暦の7月15日は「中元」、旧暦の10月15日は「下元」と呼ばれ、それぞれの日を神様の誕生日として人々がお供え物をする行事がありました。これらの行事が、日本ですでに存在していた「盆礼」という行事と結びつき、「お中元」が生まれました。
また、日本には、もともとお正月にご先祖様の霊をお迎えする「御霊祭」のためにお供え物をする風習がありました。そのお供え物として、よその家に嫁いだ人や分家の人たちが、本家や実家にお神酒のおつまみになるような塩鮭やするめ、数の子などを年末に手渡しで持っていくようになります。これが中国の行事と結びついて「お歳暮」のルーツになったと言われています。
その後、江戸時代に入ると武士が自分の所属する組合の組頭に准血縁の証として年末に贈り物をする習慣が根付きました。一方、商人の世界では掛け売りの商売が広く行われており、お盆や年末に半年分の精算をする習慣があったことから、精算をする時に得意先にお礼のための贈り物をするようになります。明治時代以降は、しだいに上司やお世話になった方にも贈り物をするようになり、現代のお歳暮の習慣が一気に広まったのです。
お歳暮とよく似た風習に「お中元」があります。お中元は、もともと中国で旧暦の7月15日の「中元」に、仏教の年中行事である「盂蘭盆会(うらぼんえ)」が行われていたことが由来です。盂蘭盆会に関して、お釈迦様の弟子のひとり、目連尊者(もくれんそんじゃ)が地獄に落ちて苦しんでいる母を救うために、お釈迦様の教えに従って、旧暦の7月15日に百味を盆に盛って修行を終えた僧たちに供養したところ、母親を救うことができた、という言い伝えが残されています。
日本の「お盆」は、7世紀の初めにこの「盂蘭盆会」が中国から伝わり、606年に「斎会」と呼ばれる行事が行われたことがはじまりと言われています。以来、日本に仏教が広まるとともにお盆の行事も普及していく中で、「中元」と「お盆」が結びつき、お盆の時期に贈り物のやりとりがなされるようになりました。
お歳暮もお中元も、どちらもお世話になった方へ日頃の感謝の思いを伝えるために贈り物をするもので、特に目的に大きな違いはありません。贈り物をする時期が、お歳暮は年末であるのに対し、お中元は1年の真ん中頃であるといった違いがあるくらいです。お中元とお歳暮はセットで贈るものと考えられていますが、近年では1年の締めくくりである年末に贈るお歳暮のほうが重視される傾向にあります。
北陸地方では、娘が結婚すると嫁の実家から娘の嫁ぎ先に、お歳暮として出世魚のブリを丸ごと1本贈る風習があります。この風習は「嫁ブリ」と呼ばれ、「出世魚のブリのように、旦那さんには出世してほしい」「娘がこれから暮らす家が末永く繁栄してほしい」「これから生まれてくる子供が健やかに成長してほしい」との願いが込められたものです。そのため、娘を嫁がせた家では、年末になると一匹数万円もするブリを値段も気にせず買い求める人が多いと言われています。また、婿の実家側では、贈られたブリをすぐさま半身にして嫁の実家に返し、双方とも親戚や近所の人々に配るのが習わしとなっています。
逆に、九州では婿の実家から嫁の実家にブリを贈る風習があります。これは、「良か嫁ぶり」という意味に掛けて行われているものであり、婿の家族から嫁の実家に対する「大切な娘さんをお嫁にいただきありがとうございました」という感謝の思いが込められています。かつては、婿の両親が息子とともに嫁の実家を訪ね、挨拶をしたとも伝えられています。
お歳暮は、日頃から取引をしている企業と企業の間や、上司と部下の間でもやりとりが行われてきました。今でも、お歳暮を贈る企業のリストを作成し、お歳暮を贈り合う企業が多くあります。
しかし、バブル崩壊後はコンプライアンス意識の高まりから高額な贈答品の受け取りを辞退する企業も現れ始めました。また、2000年代以降は個人情報保護や上司・部下の癒着防止、内部統制の観点から、社内外ともにお中元やお歳暮などのやりとりを全面的に規制する企業も出てきています。
近年では若者を中心にお歳暮やお中元を贈る人が減っていると言います。お歳暮の習慣がいかにして日本に根付いてきたのかを知れば、「今年お世話になったあの人に、お歳暮を贈ってみようかな」と考える人も増えるのではないでしょうか。
※コラムの内容については、地域性や諸説ございます。
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